自分が上下逆にならないわけ

鏡を意識して使う場合、多くは自分の顔や姿を映すためです。そして、常に(上下ではなく)左右が逆になった自分が映ります。テーブルの上に寝かした鏡をのぞき込んでも、自分が横に寝そべって手に持った鏡を見ても、いつも同じ左右逆の顔が映ります。

左右が逆と言っても、それは写真やビデオで見る自分、または“そこに立っているとした自分”と比べた場合の話で、実物の自分と鏡像の自分では、上下も左右も逆になっていないことはすでに説明したとおりです。実際、鏡を見ながらハサミで髪を切ったり、ヒゲを剃ったりするときに、左右方向の手の動きで戸惑うことはありません。迷うのは、前後に手を動かすときですよね。*1*2

さて、自分の顔が左右逆にしか映らない理由は、上下を逆に映すことができるもの、たとえば時計と比べてみるとわかります。前のページで、時計を手に持って左右を逆にして鏡に向けてみたり、上下を逆にして鏡に向けてみました。ここでは、その時計のかわりに自分の顔写真を持っているとします。

自分の顔写真を普通に(左右を逆にして)鏡に向けた場合、その顔写真はそのまま実際の自分の顔に重なり、鏡にはいつも見ている自分の顔が映ります。次に上下を逆にして顔写真を鏡に向けると、左右ではなく上下が逆になった自分の顔が鏡に映りますが、手に持った顔写真は当然実際の自分の顔には重なりません。つまり、自分の顔を鏡に映して見る場合は、観察者としての自分の上下方向と、観察対象(実物)としての自分の上下方向がいつも一致するしかないため、上下逆に鏡に映ることはないわけです。

ここまでで、ほとんどの人の疑問には回答できたのではないかと思います。

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*1 机の上に黒い下敷きを立てて、その前に置いた紙の上に書かれた図形を、下敷きに映った図形を見ながら鉛筆でなぞる、という遊びを小学生のときにやったのを思い出しました。宇宙飛行士は鏡を見ながら作業することがあるため、この遊びと同様の訓練が宇宙飛行士になるためにもあるという話です。
*2 (少し横道にそれますが、、、)鏡の中の自分の姿が左右逆に見える、と何度も書いてきましたが、実のところ鏡を使いながら「自分の顔が左右が逆になっている」と意識することはあまりないのではないでしょうか。自分の写真を見るより、鏡の中の姿を見ることの方がずっと多いので、写真を見たときに違和感を感じることはありますが、単に鏡を見たときも、鏡を見ながら片目をつぶってみても、「左右が逆」という印象はあまり持っていない気がします。
私の場合、左右が逆と一番感じるのは、鏡の前で箸を持ったり、野球のバットを構えたときです。自分は右利きなのに、鏡の中にはぎっちょの人や左バッターが立っているので、このとき初めて「ああ逆だ」という感覚を持ちます。